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2022.09.05

くらしに寄り添う劇のあり方(福岡)

 須川渡と申します。関西生まれの関西育ち、福岡に越してきて5年が経ちます。ふだんは演劇研究者として、演劇の調査をしています。また、勤め先の福岡女学院大学で演劇の歴史や理論を学生に教えています。

「演劇研究」というと、あまりイメージできない人もいるかもしれません。主なフィールドは岩手県の西和賀町です。この町には地元の観客を相手に70年以上活動を続けている「劇団ぶどう座」という劇団があります。演劇資料の整理や地元の方への聞き取り調査を行い、かつて上演された古い演劇の掘り起こしを行っています。現在は、ぶどう座だけでなく全国各地の地域演劇に対象を広げ、昨年は『戦後日本のコミュニティ・シアター-特別でない「私たち」の演劇』(春風社)という本を刊行しました。

2016年「銀河ホール地域演劇祭」で行った講座「「地域演劇」を語り継ぐ」の様子

 さて、今回は「福岡や九州の演劇シーン」について執筆依頼をいただいたのですが、いきなり九州以外の地域から話を始めることになってしまいました。しかし、私にとって「地域」とは、内と外が積極的に影響を与え合う場所だと考えています。「福岡」や「九州」について考えるには、私が過ごした「関西」や「東北」との関係もまた考えざるを得ません。最近そのことについて考えるちょうどよい機会がありましたのでご紹介します。

 日本演出家協会が主催する「演劇大学 in 筑後」という催しで、宮崎の劇団こふく劇場永山智行さんと「まちと演劇」についてお話する機会をいただきました。和田喜夫さんがコーディネーターを務められている「あしたの、「演劇」を考える講座」の一環です。私は、研究しているぶどう座の事例を、永山さんは拠点とされている三股町の活動事例を紹介されました。永山さんのお話と西和賀には共通点が多々あるように感じられました。いつの間にか演劇製作の場が子どもたちや地域の人々の居場所になっていたこと。さっきまで舞台に立っていた出演者が観客と相互に入れ替わること。これらは、西和賀の地域演劇にも見られることです。永山さんは「まち」を人々の「くらし」に置き換えていましたが、私も「地域」とは人間一人ひとりの営みが感じられる場であるべきだと思います。オンライン講座という性質上、全国各地で演劇をされている方が視聴され、それぞれの地域の事例を知ることができたのも大変貴重な機会でした。

演劇大学 in 筑後 チラシ

 もっとも新型コロナの影響もあって、劇場に足を運ぶ機会が遠のいているのも事実です。しかし、この春から夏にかけて、少し希望の持てそうなことがありましたので、ご報告します。先にお伝えしたとおり、私は大学で、学生に演劇を教えています。その中で、授業期間中に行われている演劇を1本観てレポートを書く課題を出しました。今年度から対面授業も再開。オンライン授業が中心だった昨年度までは、まず実施できなかった課題です。

 集まったレポートは70本弱。自分でチケットを買うのが初めての学生もいました。博多座や北九州芸術劇場など福岡近郊の劇場が中心で、ミュージカルや2.5次元演劇、小劇場、お笑い、大衆演劇、レビューショーとジャンルも様々。おもしろいのは、劇場に居合わせた他の観客の様子を興味ぶかくレポートで記述している学生がいたことです。観客の感想を耳にして、自分とは違う物の見方に気づいた学生もいました。

 これは配信などでは、まず体験できません。最近は映像などに押されて、演劇は下火になっていると言われがちですが、それぞれのレポートを読むと、演劇にしかない魅力を伝えられる余地がまだ残っているように感じられました。

 レポート課題で取り上げられた演劇作品は、興行の側面が強いものでしたが、もう一方で、人々のくらしに寄り添うような演劇の形もあることを授業ではたびたび教えています。今後も演劇という世界の広さを工夫しながら、伝えていきたいと考えています。

須川渡(福岡女学院大学教員)

2020.07.11

コラム|コロナ後の演劇を夢想してみる(福岡)

 2020年6月末にこれを記している。
 「コロナ禍における九州の演劇シーンについて何か書いてくれ」との依頼でこれを書いているんだけれど、何せ事情が1週間単位で変わっているので、あくまでもこの文章は2020年6月末という視点から書いているというのを冒頭、明確にしつつ書き始めたいと思う。
 またこの文章は、わたくし、泊篤志個人が考えていることであって、決して私が「九州を代表して書いている」訳ではないというのも重々承知のうえこれを読み進めていただきたい。
 前置きが長くなったが、このコロナ禍騒動の日本国内における大まかな流れはこうであろう。

2020年2月末 演劇等、舞台芸術の自粛が始まる。
2020年3月 公演の自粛、延期、中止が相次ぐ。
感染予防対策をしっかりやったうえで上演するという団体もあったが、集客は芳しくなく、上演を「強行だ」として一部で非難する連絡もあったと聞く。
2020年4月7日 緊急事態宣言を発令
2020年5月6日 緊急事態宣言が延長
2020年5月14日 緊急事態宣言、福岡県を含む39県で解除
2020年5月25日 緊急事態宣言、全面解除
2020年5月下旬 北九州市で感染確認が増加、第二波か?とも言われる
2020年6月19日 北九州市、営業自粛要請を解除


 今現在まで、まる4か月間、通常の演劇上演はほぼ無かった。
 この間、Zoomを使った演劇もやられたし、過去上演のyoutubeでの無料配信、有料配信などもあった。個人的にはオンラインでの演劇にはほぼ触手が動かなかった。もちろん見たりはしたし、面白かったりもしたんだけど、何というか…、それはまあやりたい人がやればいいし、そこから新しい演劇の可能性が生まれてきたら面白いよね、うん、自分じゃそんな手を伸ばしたりはしないけど応援してる!…くらいの距離間だった。4月いっぱいまでは。じゃあ4月いっぱい、自分が何をしていたかというと…、週一で山に登った、くらいなのだ。仕事と言えば、次々と公演が中止や延期になり、その中止や延期の打ち合わせばかりしていた。これでは創作意欲など湧く訳がない。次の公演計画を立てようにもまた中止になるかも知れないのだ。だからという訳でもないけれど、週に一度、山に登っていた。夜、パソコンに向かってはコロナウイルスのことばかり調べていた。このウイルスがどこから来たのか、どうしてこんなにやっかいなのか、他の凶悪なウイルスと何が違うのか、マスクは本当に重要なのか、そんなことばかり調べていた。100年に一度のパンデミックに立ち会っているという高揚感も少なからずあったんだと思う。で分かったことは、結局のところ「できるだけ人と接触しないこと」が最大の防御であるという人類史上すべての感染症と同じ対策しかない、ということだった。


北九州劇団代表者会議メンバーによるオンライン飲み会(4月中旬)

 しかし、そんな引きこもり状態から抜け出すきっかけがやってくる。5月のゴールデンウィーク明けくらいから、自分がローカルディレクターとして関わっている北九州芸術劇場が「今だからできることを」とTwitterやYoutubeでの映像の配信を積極的にやり始めたのだ。それまで自分も「せっかく時間があるんだし、映像の編集とかやれるようになったらいいよね」とぼんやり思っていたので(高校生の時の将来の夢は「映画監督」だったし!)、この映像配信に業務として積極的に関わるようになった。ここでようやく薄っすら創作意欲みたいなものが芽生えてきて、今現在、飛ぶ劇場の劇団員を集めて短い映像作品を作っている。撮影前に集まり、稽古をした経験は何とも甘美な時間となった。誰もが「稽古楽しい」「演劇楽しい」と思えた瞬間だったと思う。4か月間の創作自粛も悪くないなと思えた。コロナ禍で自分としては「何もしてない」つもりだったけれど、山には登ったし、映像を創り始めたし、コロナウイルスにも詳しくなった。世の演劇人もだいたいそんなもんなんじゃないかと思う。九州の演劇人だけじゃなく、東京の人だって他の地域に住む人だって。例えば料理の腕があがったり、本を読んだり、映画を見たり、この自粛期間にぼーっと過ごした人だって、コロナ後の世界をあれこれ想像したんじゃないかと思う。意外とZoomを使った打合せやミーティングが有効だったって知ると、これからのリアルに対面しての打合せってそんなに必要じゃないかも?とか思えたり、オンラインで全国の人が繋がってしまうことが幾つかあったりしたので、これ、例えば「九州の演劇」みたいな地域の括りが重要じゃなくなってくるかも?と感じたり、生活様式がずいぶんと変わって来るのではないか、そんなことをそれぞれが思考したんじゃないかと思う。


映像作品を撮影中の飛ぶ劇場メンバー(6月中旬)

 さて、そこでやっと演劇に話が戻って来る。今現在、7月からコンサートや演劇が観客数を半分くらいにして再開しようとしている。再開しようとしている中、東京では再び感染者数がじわりと増加しているので、もしかしたら東京は再び「自粛」となるのかも知れないし、その影響は全国各地に広がる恐れもある。まだしばらくは「もし」の場合を想定して公演の計画を立て、予算を渋めに設定しなければならない状態が続きそうだ。このことが続けば舞台芸術全般(スタッフワークも含むすべて)における萎縮が懸念されるし、現れるはずだった才能が出てこないという損失も大きいだろう。
 そして今後、第二波や次の別のウイルスの登場が噂される中、例えばオンラインでの演劇配信はきっと増えてくるだろうなと想像する。これまでは目の前にたくさんのお客さんがいて、劇場でのお互いの呼吸というものが舞台のsomething wonderfulを作り出していた…というのが「生の魅力」だった。きっと今後は「生」の重要性が高まるとともに、オンラインでの配信も並行して成長していくんじゃないかと想像する。またいつ「自粛」が始まるか分からないので、その時に向けた自衛策として。そしてその自衛策がまた別の「演劇」の姿を見せてくれるのかも知れない、とも夢想している。

 先日、知り合いのミュージシャンのライブを配信で見ることがあった。一緒に舞台を作ったことはあるが、彼らのライブを見たことはなく、配信でなら気軽に覗けるかな?と覗いたのだった。ライブハウスを借りて無観客での有料配信だったんだけど、これがなかなか良かったのだ。カメラや音響やスタッフワークが素晴らしかったのもあると思うけれど、見応えがあったし、次は是非、生の演奏を見てみたいと本当に思えたのだ。これは配信ならではの好例だと思う。ライブハウスに足を運ぶのはちょっとハードルが高い、って人がこれをきっかけに実際ライブを見に行くかも知れないのだ。もしくはその日時は行けないけれど、でも配信があるなら、せめて配信で見ようか、とか。今後は実際の「生の舞台」と「ネット配信」が同時に行われた方がもしもの時に大赤字を抱えなくてよくなるかも知れないし、案外、配信での収益の方が好調になるかも知れない。
 いや、でも、自分は生の舞台が好きなんですよ?演劇は配信じゃあ魅力半減だと思っていますよ。でも、そのライブの配信がね、良かったんですよ。これ演劇にも置き換えられるんだなぁって思っちゃったんですよ。

 先のことは分からない。10年後の世界のことは分からない。ウイルスと天変地異と世界戦争が同時に起きて演劇どころじゃないかも知れない。いやな時代だなぁと思うけれど、そんな不確かな世界をしたたかに生きて行く、するりと姿を変えられる柔軟さを持ってなきゃなぁとも考えている。

泊篤志(飛ぶ劇場)

2018.11.04

コラム|九州の演劇シーン/地域の演劇に関わって感じること(福岡)

 九州地域演劇協議会さま、そしてこのコラムを読んでくれている皆様、こんにちは。北九州でkitaya505という舞台制作会社をやってます北村功治です。

 舞台制作って???って方がいらっしゃるかもですね。舞台制作てのは、公演の企画や運営、予算管理、そのほかモロモロ、劇場にはいったら舞台上以外の雑務なども引き受けたりする事務方の何でも屋です。
 北九州で公演されるの県外の団体さんの受け入れや、九州の団体さんが九州外で公演する際のコーディネートなどが主な業務です。最近は、舞台芸術を用いて街を元気に!なんてプロジェクトにも関わってきました。以上の業務終わりのひとり打ち上げがもうたまらん大好きです。


東京で公演が終わり一人打ち上げ


広島で打ち合わせが終わり一人打ち上げ


フェリーの中で一人打ち入り

 もしかしたら、「『mola!』という演劇情報サイトをやってる会社です」と説明するのが一番伝わるかもですね。“九州の演劇情報をモーラ!する”というコンセプトではじめたmola!も12月で丸4年になります。これまでに1300~1400本の記事をリリースしてきましたが、まだまだ網羅出来ていませんので、まだまだmola!します、よろしくお願いいたします。

 仕事柄、他地域での公演や舞台芸術に関わる機会がい多い身としては、モノや情報や人が集中する大都市は例外としても、九州の演劇は非常に活発で恵まれた環境だなぁと感じています。
 9月に福岡で開催されたばかりの九州演劇人サミットは長年、「九州の演劇」や「地域の演劇」を強く意識したシンポジウムやワークショップ、公演などを開催しているし、北九州芸術劇場宮崎県立芸術劇場が行っているプロデュース形式の公演、熊本では実行委員会形式で行われている『DENGEKI』、宮崎の三股町では九州演劇の物産展といった趣の「まちドラ!」など九州の舞台芸術を強く意識した公演や催しも存在します。こうして挙げてみると、「大都市は例外としても」と書きましたが、「大都市にはない九州固有の恵まれた環境がある」と表現したほうが良いかもしれません。

 今年は特に九州の劇団さんが、九州を飛び出て活発に活動していると感じています。宮崎の劇団こふく劇場は全国10箇所ツアーを敢行中。北九州のブルーエゴナクは、5月にせんがわ劇場演劇コンクールに参加後、9月はこまばアゴラ劇場で上演、12月にはロームシアター京都で新作の上演。熊本の劇団きららは熊本・福岡・東京ツアーを先日発表されたばかり。
 そのほか、演劇集団非常口(鹿児島)、万能グローブガラパゴスダイナモス(福岡)、不思議少年(熊本)、が九州外でのツアーを控えており、様々な団体さんが九州の演劇を発信することになっていますね。また、長崎のF’s Companyは九州を飛び出てではなく、「アトリエPenta」という拠点で田上豊(田上パル)さんやごまのはえ(ニットキャップシアター)さんという九州外のアーティストを迎えての創作と発表を行います。

 そもそも「九州の演劇」や「地域の演劇」ってなんなのでしょうか?九州の団体さんの活動をさらっと紹介しましたが、すべて九州の団体の活動ではあるけれど、どれもそれぞれ固有の作風・カラーで勝負されてます。もしかしたら、、、ですが「九州の演劇」や「地域の演劇」というのは、その土地の人がその土地やその人の事情で演劇に関わったら「こんなんなりました」って結果くらいなのかもしれません。九州は、そういった過程や結果を語り合い、披露し合い、次に繋がる何かが上手に機能しているのかもしれませんね。

 先程、紹介した団体さんでもう少し紹介したい団体さんがあります。

 鹿児島は焼酎処で有名な「伊佐」という人口25000人の土地があります。県外から伊佐を訪れるなら、日に何本かしかないバスに乗って……というような場所に伊佐は存在します。
 そこで17年活動している演劇集団非常口が、初の九州外公演を東京はこまばアゴラ劇場で11月に行います。作・演出の島田佳代さんは、九州戯曲賞大賞を受賞するなど劇作家としての評価はされてきましたが、今回は劇団として大きな挑戦と言って良いのではないでしょうか。

 島田さんは、今回の挑戦を以下のように述べています。「町でひとつの劇団ということもあって温かい目で観ていただけることも多く、人にも環境にも大変恵まれています。今回、初めて九州を飛び出してみることにしました。温かさから離れ、自分たちのことを全く知らないお客様にも作品を観ていただきたいと思いました。自分たちが創ってきた演劇がどう受け止められるのか、受け止めてもらえるのか、楽しみで、そして怖いです。怖いけれど、今がきっと挑戦するべき時だと思うのです。17年間の活動を信じて、挑みます。」

 もしかしたら、「九州の演劇」や「地域の演劇」ってのは島田さんのこの言葉に集約されているのかもしれません。

 各地で演劇に携わっている方々が、なんやかんやがんばっているので「じゃあボクも」という気持ちになります。

                         合同会社kitaya505 代表:北村功治

2018.07.01

九州演劇人サミットin福岡(2018.9.9)を開催します。

九州演劇人サミットを下記の通り、開催いたします。

◆九州演劇人サミットin福岡
~九州演劇シーンが熱くなる~

九州演劇人サミットは、熊本県立劇場で行われた日本劇作家大会2005 熊本大会(日本劇作家協会主催)の中のプログラムとしてはじまったトークイベント。
九州各地で活躍する演劇人が一堂に会し、それぞれの地域の演劇事情や課題・展望などを語り合い、九州演劇界の活性化と交流を促進することを目的としています。
演劇が好きな方、演劇をやってきた方、そして演劇をやろうとしている方、みんな集ってこれからの演劇の話をしましょう!

■日時
2018年9月9日(日)15:30~17:30

■トークテーマ
・九州各地域の状況
・九州演劇シーンのこれからについて

詳細は、公式サイトをご確認ください。
九州演劇人サミットin福岡 公式サイト

2016.12.27

コラム|久留米に新たな演劇の風を(福岡)

2016年4月に福岡県久留米市にオープンした久留米シティプラザで、ドラマアーツ・ディレクターをさせていただいております、小松杏里と申します。

私は東京出身で、元々、東京で演劇活動をしていましたが、10年ほど前に福岡に三年間住んでいた時に九州の演劇界とのつながりが生まれ、その縁もあり、久留米に呼ばれました。、
そして、久留米シティプラザのオープンに合わせ、その一年前から久留米に移住し、準備のために九州のあちこちに伺わせていただきました。

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久留米シティプラザ

九州の演劇といえば、北九州、福岡、熊本、大分、長崎、宮崎が盛んで、もちろん、佐賀や鹿児島で活動されている方々もいらっしゃいますが、久留米の演劇というのは、ほとんど聞いたことがないと思います。しかし、近年では、吉田羊さんが久留米出身ということで注目されていますし、田中麗奈さんや藤吉久美子さんもそうです。また、久留米出身で福岡で演劇活動をされている方も多く、久留米をはじめとした筑後地区の高校演劇のレベルの高さは、全国的にも有名です。
ところが、その久留米で、継続的に演劇活動を続けているところといえば、市民劇団がふたつほどしかありません。久留米は美術と音楽の街だったのです。

そんな久留米に、3つの劇場を持つ複合施設が出来るのですから、久留米にも演劇文化を根付かせていかないわけにはいきません。久留米シティプラザは、5年間は久留米市直営で運営されるので、その間に、市の文化事業として、久留米に新しい演劇の風を起こさなくてはならないのです。
そのためには、演劇の楽しさ、おもしろさを市民の人たちに伝えていかなくてはなりません。
そこで、演劇を「やる楽しみ」と「観る楽しみ」の、ふたつを育てていこうと考えました。
そうして企画し、6月から始めたのが「小松杏里のくるめ演劇塾」であり、秋に開催したのが「めくるめくエンゲキ祭」です。

 

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小松杏里のくるめ演劇塾募集チラシ

 

開館一年前からの調査で、久留米市各地のコミュニティセンターには、演劇の講座や同好会のようなものはありませんでしたが、指導してくれる人がいたらやってみたいという声が多くあることがわかりました。つまり、演劇に興味があったり、中学や高校・大学時代に演劇をやったことはあるけれど、その後、やれる場所がなくてやらなかった、という人が意外に多くいることがわかったのです。また、子どもに演劇をやらせたいという人も多くいました。

そして、6月にお試し期間から始めた「くるめ演劇塾」には、現在行われている本期間まで、120名もの老若男女の方たちが参加してくれました。下は小学校2年生から、上は76歳の方までです。

この、くるめ演劇塾の塾生たちの中からオーディションで選ばれたメンバーによる舞台発表会が2017年の1月に行われますし、来年度は発表の機会を増やして、より、演劇を「やる楽しみ」を多くの人たちに知ってもらいたいと考えています。

 

一方の「観る楽しみ」ですが、これはもちろん、久留米シティプラザに良質な演劇公演を呼んで観てもらうことも大切ですが、いわゆる演劇ファンではない、あまり、演劇に接したことのない一般市民の人たちに演劇のおもしろさを伝えていくためには、身近なところでも演劇のおもしろさを知ることができ、楽しむことができる、ということを知ってもらうことが重要だと考えました。

そこで、まずは、久留米の人たちに演劇のおもしろさを知ってもらいたいと企画したのが「めくるめくエンゲキ祭」です。ですから、この演劇祭は、演劇ファンのための演劇祭とは、ちょっと異なると思います。

 

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めくるめくエンゲキ祭チラシ

 

第一回目のめくるめくエンゲキ祭では、4つのテーマを設けました。
ひとつは、九州には、有名とはいえなくても、こんなにおもしろい演劇をやっている劇団があるんだよ、ということを伝えたい〈九州4県から、めくるめく劇団がくるめくる!〉。

とはいえ、久留米にも、頑張って活動している市民劇団があるんだよ、ということをアピールしたい〈久留米も負けられんたい!〉が、ふたつめ。

そして、演劇を作り上げる基となる戯曲を書くことに興味を持ってもらうために、〈九州には九州戯曲賞があるけん!〉ということを知ってもらい、、地元・筑後地区の高校演劇の素晴らしさを市民の人たちに知ってもらうと同時に、高校演劇を応援する〈高校生チアーズ!〉の、4つです。

 

このめくるめくエンゲキ祭は、地元の市民劇団や高校演劇の公演には多くの人が観に来てくれましたが、ほかの地域から来てくれた劇団の公演には、それほど多くの人は集まりませんでした。まだ、純粋に演劇のおもしろさを楽しむという意識には達していないからなのだと思いますが、それは仕方のないことです。おそらく、これまで、身近なところで、つまり、知り合い関係の演劇を観に行っても、それが、本当の意味での、演劇のおもしろさを感じさせてくれるものではなかったからなのではないかと思うからです。

そこで、前に書いた、くるめ演劇塾の発表の機会を増やし、幅広い表現のある演劇のおもしろさを伝えていくということが重要になってくるのです。こういう演劇もあるんだ、こういうのもあるんだ、という、演劇に対する既成の価値観を、身近なところから変えていくのです。

 

久留米という、演劇文化がまだ充分に育っていない街に演劇を根付かせるには、土地を耕し、種を蒔き、水や肥料をやるなど、まだまだ多くの時間がかかると思いますが、いつの日か、久留米ならではの演劇の花を咲かせたいと思っています。それが、九州の演劇文化の振興に寄与することにもなると思いますので、これからさらに九州の演劇関係の方々と協力し合い、盛り上げていくために頑張っていく所存です。また、何年後かに、その後の進捗状況を報告させていただけたらと思います。

今後も、よろしくお願い致します。

久留米シティプラザ ドラマアーツ・ディレクター 小松杏里

2014.11.16

コラム│賞に応募を続けて見えてきたこと(福岡)

福岡を拠点に活動している劇団HallBrothers主宰の幸田真洋です。

劇団HallBrotgersは1999年に結成。今年で15年になります。そしてその節目の年に、九州戯曲賞大賞をいただきました。やったー!…年甲斐もなくはしゃいでしまいました。すみません。
7月に受賞してから今まで、ずっとはしゃぎっぱなしです。やはり、率直に嬉しい。
過去四回応募してきましたが、一度も最終選考に残ることはなく、つまり全くかすりもせずに落選してきました。
それが初めて最終選考に残ったかと思ったら、大賞まで頂いたのですから・・・嬉しいに決まっています。もう一回はしゃぎます。やったー!

・・・とはいえ、もしかしたら、これが奇跡の一回だったのかもしれません。

なんてことを考えると
「この先、大丈夫だろう?ちゃんと良い作品が作れるのだろうか」
とドキドキしてしまいますが、いやいや、そんなことはないと自分に言い聞かせています。
四度落選した経験が、地力を高めてくれたはずだ、と。

授賞式

一番最初に応募したのは2008年の第一回の時でしたが、当時は、今思うと何も考えていなかったです。なんとなく本を書いて芝居を作っていました。
それなのに根拠のない自信ばかりありました。最終選考くらい、軽く残るだろう、と。
それがあえなく惨敗。
送られてきた一次審査員の講評を見て、初めて自分の考えの足りなさ、浅さに気付きました。

人間は自分が見たいものしか見えません。
その事に気付かせてくれるのは、他人からの客観的な評価です。
「あ、そういう見方、してなかった・・・」
「そんな細かいとこ、考えてなかった・・・」
「そういうところまで考えなくちゃダメなの・・・?」
などなど・・・
自分に都合のよいようにしか戯曲を見ていなかった事に気付かされました。

それから、僕は生まれ変わ・・・れませんでした。
「でも、お前に見る目ないんじゃないの?」
など、自分に都合がいいように言い訳を重ねてきました。
そして、知り合いの演劇人が最終選考まで残るのを見るたびに、嫉妬と悔しさばかり募らせていったのです。

けれど、さすがに何度も落選していると、自分に問題があるのではないかという事を認めざるを得なくなりました。

それから、自分の作品に対しての見方が少しずつ変わっていき、結果に繋がったのかな、と思います。

言い訳したり、あきらめたり、考えなかったり、甘い自己弁護だったり・・・
戦わなければいけないのは自分だという事に気付かせてくれた九州戯曲賞は、僕にとって大きな存在です。

となりの田中さん初演

そして、新たな出会いの場にもなりました。
受賞作『となりの田中さん』を12月11日(水)から23日(火・祝)まで、ぽんプラザホールでロングラン公演をするのですが、その中で最終選考委員を務めていただいた岩松了さんとアフタートークをさせていただくことになりました。

岩松さんに芝居を観てもらえて、その上、アフタートークまでしていただけるなんて、九州戯曲賞がなければ実現しなかったことです。

最後に、こういう機会を与えてくださった九州戯曲賞を支えるすべてのみなさま、ありがとうございました。

(劇団HallBrothers主宰 幸田真洋)

2014.05.19

コラム|言葉(福岡)

代替のきかない演劇の力、と言うものを実感した事がありません。
他者を、自分を、未知と出会わせワクワクさせるような事や、共感し進んで行く力を得るような事、イメージを深める事は、別に演劇じゃなくても出来ると思っています。
子どもたちと芝居をする度に、その力、を何度も見せつけられているにもかかわらず、代替がきくと思えてしまいます。

なので、「この世に演劇がなくなったら大変ですよ!」と広く言える自信がありません。
自分が好きだからやっているだけ。

何故好きなのか?
某有名漫画に影響されて始めた演劇ではありますが、それよりも、ずっと前。
国語の教科書の中の、括弧書きを読むのが楽しかったのを覚えています。
自分の言葉じゃない言葉を喋る、という事への興味が、
私が演劇を好きになった始まりだったのでしょう。

その後、括弧書きだらけの、台本、と言うものに出会います。
全部、自分じゃない誰かの言葉だらけ。
優しい言葉も、イジワルな言葉も、自分だったら言わない状況下でのそれらを読むのが楽しくて仕方ありませんでした。

芝居を続けていくうちに、それらは、自分の中にも実は存在している言葉たちなのだと気づき、以前ほど手放しで楽しめなくはなりましたが、だからか興味は更に増し、時に喜んで貰えたり、必要として貰えたり、繋がる事が出来たり、の経験が自信になり、少々の困難は越えていける力がつき、更に好きになり、で現在に至ります。

これが「演劇」でなかったら、自分はどうだったのだろうと考えると、なかったらないで、他の事で同じように進んで来たのかもしれないけれど、それでもその事の中に、
私はやはり言葉を探していた気がします。
私にとっての演劇は「言葉」なのかもしれません。
代替がきくと思えてしまうのは、そのせいかもしれないです。

そんな私に、代替がきかないと思える程の演劇の力を、言葉を、紡ぐ為に不足しているモノを探す、新たなきっかけを与えて頂いてから間もなく1年です。

今年も間もなく「九州戯曲賞」の応募が締切られますね。
ちょうど一年前、葛藤していました。

目的は、審査員の方々からの批評を受ける事だったにもかかわらず、いざとなると、それ以外の諸々が思いのほか襲って来て、応募が怖くなりました。
あの時、もし応募していなかったら、私は今も何も確認できていないままです。
自分の好きな事に対して、曖昧な自信と不信を持ったままの今でした。
受賞は、見送られるかどうかのギリギリのモノではあったようですが、
その事実も、私の糧となりました。

あの恐怖を与えてくれたのは、知名度のある注目されている、九州の「戯曲賞」だったからです。
そして、一つの確認と、糧に出来たのは、あれだけの審査員の方々に選評を頂けたからです。
この賞を支えてくれているのは、きっと演劇の力を信じている方たちなのですよね。
私のような人間にも、その機会は平等に与えられ、進む勇気を頂けた事に感謝するとともに、今年は審査員の方々を唸らせる作品の受賞が、応募者だけでなく、戯曲を書いている沢山の同志に多大な前のめりの刺激を与えられる事を祈ります。

頬を叩き応援されたかのような一年前のあの日は、さまざまな言葉に変換され、今も私の背中を押し続けてくれています。

劇団 go to 主宰 後藤香

summit

2012.12.31

コラム|福岡にいること、東京にいないこと、アンテナ。

こんにちは。2012年もまもなく終わります
福岡で活動中の劇団、万能グローブ ガラパゴスダイナモスの作・演出、川口です。僕が福岡で演劇を始めたのは、高校卒業後、高校演劇部の知人達で劇団(ガラパとは別の劇団です)を旗揚げした時からですから、もう10年近く前になります。って書いてびっくりしました。もう10年!まさかそんなにも演劇を傍らに置いた生活を続けるだなんて、当時の僕はこれっぽっちも思っていませんでした。

天神の様子

その頃から今現在までをざっくりと振り返ってみるに、福岡の演劇事情に色々な変化があったのだなあと思います。例を挙げだすときりがないのでいくつかピックアップして書きますが、最も大きな違いとして感じるのはやはり、他都市、特に東京の演劇との交流が格段に増えた、という点ではないでしょうか。

演劇に携わる人口が、圧倒的に多い関東地方や関西地方、そこで注目されている劇団やユニット、俳優や演出家が福岡に訪れ、我々福岡の俳優や演出と交流をする。ワークショップであったり、共に作品を作ったり、ドラマドクターという形で創作に深く関わりあったり、こういった密な関係は10年前ではまず考えられなかったことのように思います。

また、直接的な交流はなくとも、インターネットを通じて自分が気になる劇団や演出家、作家の情報は一昔前と比べると遥かに容易に手に入れられるようになりました。継続性のある劇団の大半は、自作をDVD化して販売しておりネットでの購入も容易いです。(一昔前であれば、限られた一部の人気劇団の公演がスカパーなんかで放送されるのを必死に録画していたものです。)また、実際にその作品を見た観客のレビューや、劇団側がyoutubeやユーストリームで作品を配信したりということも、もはや珍しいことではなくなりました。さらにいえば、ブログやツイッター等で、そういった作家や俳優の、創作の根源になっているであろう日々の思考などに触れることもなんら難しい事ではありません。
もはや「気軽に手に入れられる」といったレベルでなく「溢れている」あるいは「氾濫している」といっても差し支えない状況でしょう。(勿論これは、演劇というジャンルに限ったことではないですが。)

僕自身、そういった交流や情報の中で得た知識や技術が、今の自分の演劇活動に多大な影響を与えているのは間違いありません。10年前では、たくさんの時間とお金を使わなければ手に入れられなかったものが、少し手を伸ばせば当時よりも遥かに容易に手に入れられる。凄い時代になったものです。

福岡は国内でも有数の都市であり、その「情報の波」によくもわるくも、とりわけ敏感にならざるを得ない土地だったのだと思います。

しかし、そんな時代だからこそ情報を精査する力がより求められるのだとも感じます。中央から洪水のように押し寄せる大量の情報に、敏感にアンテナをはりつづけることと、そしてその中から何を選り抜き、何を捨てるのか。そのセンスが要求されているのだなと感じることが多々あります。そのセンスが、今一番求められているのかもしれません。

そういえば、東京の知人から「東京にはなんでもある。情報も多い。でも、流れが速すぎて疲れてしまう。」という類いの話をよく聞きます。そういう意味では、このボーダレスな時代、「福岡」という土地のアドバンテージはそこにあるのかもしれません。必要なとこだけ上手にすくいあげて、あとはじっくり腰を据え自分のペースで創作を続ける。そんなオイシイとこどりができれば、一番いいよね、なんと思います。

劇場の話など他にも書きたい事はたくさんありますが、あまり長くなってもアレですのでそろそろここらで。
2013年、福岡の、そして九州の演劇にとって良い年になりますように。

万能グローブ ガラパゴスダイナモス
川口大樹

2012.05.06

コラム|博多どんたく港まつりを終えた福岡から、地元の演劇状況

福岡は、5月の3,4日と、博多どんたく港まつりでした。歴史は長く、今年で833年目とのこと。博多どんたくが一段落して夏がやってくると、ぽんプラザホールのご近所である櫛田神社を中心に、福岡、博多は7月15日の博多祇園山笠に向かって突き進みます。

九州地域演劇協議会が主催している「九州戯曲賞」は、今年、この二つの祭りを挟みこむようにして実施されます。この3点を結ぶ共通点を敢えて見出そうとすると、「明太子をつくってよかった」でおなじみの味の明太子ふくやです。「九州戯曲賞」は設立当初から株式会社ふくやからの協賛をいただいています。地域文化への理解が深い地場企業があるということは非常にありがたいことであります。

九州戯曲賞は、2009年から始め、今年で4回目となります。2012年5月15日消印有効となっています。締め切りまであまり間が無いですが、まだ間に合う日程です。もし、身近に九州の劇作家がいらっしゃいましたら、お勧めしてみてください。今回の最終審査は、九州出身の第一線で活躍する劇作家の5名、岩松了、中島かずき、古城十忍、横内謙介、松田正隆(敬称略)にお願いしています。

さて、福岡の演劇状況です。公演カレンダーを見てみると、毎週末何かしらの公演がどこかであっているようです。私が学生をやっていた15年くらい前の公演数は随分と少なく、楽しみにできる公演も年に数回という感じでした。演劇を志す多くの若者は東京を目指し、演劇を続ける場合は、どこで続けるかということを否が応にも考えなければいけなかったのかなぁと思います。私の高校演劇での仲間はやはり東京へ行き、その反発かはわからないけれど、東京の演劇シーンをろくに調べようとせず、私は絶対東京には行くものかと思ったものです。

今では福岡の演劇公演も随分と増え、年に数回ではあるけれど、公演を「選ばなければならない」という贅沢も味わえるようになりました。一方で、少子化のことも考えると、普通にやっていると、この先劇団は増えにくいのではないのかなぁと予想されます。大学演劇部は合同公演などを通して、卒業後に劇団を旗揚げするという現象が戻りつつありますが、高校の演劇部は最近元気がないと聞きます。将来の年代格差を防ぐ意味でも、これからの若い世代に対して、現役の私達が有効にアプローチできる方法を探さないといけません。

遠い未来の私たちの子孫が振り返った時に、833年とは言わなくても、長い歴史があるらしいと自慢できるものの一端でも担えたら素敵です。そういう歴史を作れるのは、文化に他ならないと思います。まぁ、そう言った心持ちでやっていると、壮大かなぁと思うわけです。

文:本田範隆(九州地域演劇協議会 前理事長)|NPO法人FPAP

2011.05.31

九州演劇人サミットin福岡

九州演劇人サミットin福岡 2011 ~ 動く!九州の演劇シーン ~
下記の日程で開催予定です。

日程:2011年7月23日(土) 16:00~
会場:ぽんプラザホール(福岡県福岡市博多区祇園町8番3号)
主催:九州地域演劇協議会 NPO法人FPAP

最新情報はNPO法人FPAPのサイトでご覧になれます。
九州演劇人サミットin福岡 2011 ~ 動く!九州の演劇シーン ~
http://www.fpap.jp/summit/2011/