熊本を拠点とする劇団ゼロソーの俳優、またSulcambas! 代表として舞台制作に携わっています松岡優子です。
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平成28年熊本地震発生から2ヶ月半。この地震は熊本に様々な変化をもたらすとともに、熊本の演劇の活力を再認識させられたこととなった。
(写真 花習舎近く健軍商店街の中の倒壊したスーパー)
女優、演出家、劇作家の渡辺えりさんが来られたのは、6月26日のこと。アトリエ花習舎には急な呼びかけにも関わらず20名を超える演劇人。えりさんは3時間を超える長い時間、深い懐でひたすら私たちの生活環境や演劇活動ができているのかどうかといった話に耳を傾けてくださった。それぞれに連絡を取り合い近況を聞いていた人もいたものの、そこでの話からみんなの体験(苦労)は一様ではないと痛感させられた。
(写真 本震後のアトリエ花習舎)
益城町に住む劇団「石」の女優さんは、罹災証明の判定に不服を感じつつも2次審査を申請することができなかったやるせなさに声を震わせていた。
劇団「石」は代表の堀田清さんをはじめ益城在住の方が多く、今まで使っていた稽古場は避難所となっているため利用不可能、堀田さんは罹災証明発行のための現地案内で東奔西走、劇団員の西山広成さんはこの4月からミナテラス(益城町交流情報センター)の所長となっており本震後4、5日は我が家に帰ることも眠ることもできない程に避難所運営に追われた。
劇団夢桟敷さんは地震被害により事務所兼代表 山南純平さんのご自宅の引っ越しを余儀なくされた。
(写真:渡辺えりさんを囲んで)
えりさんを囲んだ会に本番のため出席できなかった劇団「第七インターチェンジ」の代表 亀井純太郎くんの自宅兼劇団稽古場は傾いてしまって、亀井くんは他の場所に身を寄せていると聞く。
またゼロソー代表の河野ミチユキは、勤める熊本市男女共同参画センターはあもにいも例に漏れず避難所となっているため避難者対応やはあもにいに届く物資を近隣避難所へ運んでいた。
劇団きららは地震の時、東京公演真っ最中。命が脅かされた瞬間に劇団きららが熊本にいなかったことは、全ての人の無事を確認することができない状況下において私にとっては「この人たちは無事だ」と絶対的な事実としての精神的な拠り所、救いだった気がする。しかし、遠く東京から熊本を思うことしか出来なかった皆さんの心情はいかばかりだったろうか。
(写真 益城町文化会館周辺)
LINE、メール、電話、Twitter、Facebook、あらゆる方法でみんなの無事を確認しあっていた中、突然、熊本の演劇人が集まることになる。劇団「市民舞台」代表をされていた五島和幸さんの急逝によって。
通夜、葬儀には熊本の演劇関係者が多数参列し、他にもバレエ、能楽、オペラ、熊本のありとあらゆる芸術家、技術スタッフが五島さんの早すぎる死を惜しんだ。「これからだったのに…」と異口同音に皆が口を揃えていた。五島さんに熊本の演劇界はどれだけ支えられてきたことか…。
お通夜は前震の10日後、余震の続く緊張状態だっただけに久しぶりに仲間との再会に変な話だけれどもホッとする感情も生まれた。仲間達の無事な姿に緊張が緩んでいくのを感じながら、「五島さんが私たちを集めてくれたんだね」と声をかけあった。「だからって先立つには早すぎるでしょう!」と五島さんの不在が悔やまれてならなかった。地震がなければ…そう思わずにはいられなかった。
熊本に未曾有の被害をもたらした地震との闘いはなおも続いている。被害の大きかった益城町、南阿蘇を中心にまだ復興への道のりは遠く険しい。私自身、住む家をなくした。けれども、熊本の演劇人はとどまることを知らない。
(写真:余震の影響で天井が落ちた健軍文化ホール)
劇団「石」を中心とした毎年恒例の夏目漱石を題材とした演劇の熊本・東京公演は、一時は中止と聞いていたけれど、熊本市民会館から熊本県立劇場へ会場を移しての公演決定。劇団夢桟敷を中心とした演劇ユニット九州「劇」派は熊本・東京公演、そして夢桟敷はその先にはブラジル公演も見据え、その歩みを止めることはない。益城町にお住まいの小松野希海さんはご自身も大変な状況であるにも関わらず、Studio in.K.でいち早くゴールデンウィークから公演を実施。くまもと若手演劇バトル「DENGEKI」も例年どおり10月に開催決定。
目の前の生活で手一杯になってもおかしくない状況下で、立ち向かう、切り開く姿に熊本の底力を感じずにはいられない。
多くの方の支えを受け、私は熊本の演劇人有志とともにアートによる街や人の再生・復興に寄与することを目的とした団体、SASHIYORI Art Revival Connection KUMAMOTO(SARCK/通称 さるくっく)を地震の一ヶ月後に設立した。またアトリエ花習舎では、急遽、月光亭落語会の投げ銭寄席、若林美保さん・大槻オサムさん・谷本仰さんの作品「two」を上演していただけることに。「とにかく熊本へ」その気持ちがとても嬉しく本番の日が待ち遠しい。
(写真:広安西小学校で子どもたちと遊ぶSARCK)
Sulcambas!主催で昨年秋に開催した「カシューナッツ 12帖演劇祭」は助成いただいた熊本県の助成金の募集目処が立っていないため今秋開催に向けクラウドファンディングに挑戦中だ。こんな今だからこそ、やりたい。熊本でひとつでも多くの笑顔が生みだしていきたいと願っている。クラウドファンディングには花習舎3日間提供というリターンもあり、作品を持ってくることでもぜひ熊本を盛り上げてほしい。
地震後、九州、全国から励ましの言葉やご支援をいただき、どんなに言葉を尽くしても感謝の気持ちを表現できない。心寄せてくださる皆さんの思いは確実に熊本の演劇人の原動力となっている。だから、声高に叫ぶ。「がんばるけん!熊本演劇」
ゼロソー 俳優/Sulcambas! 代表/SARCK 代表
松岡優子