2020.10.08
コラム|「新しさ」ではなく(宮崎)
「最適化」とか「アップデート」という言葉が苦手である。ほとんど憎んでいると言っていいぐらいだ。
スマートフォンは使っていないのだが、それでもパソコンには定期的に「アップデートしてください」という通知がやってくる。こんなことを言うとおじさんの戯言のようで笑われてしまうかもしれないが、そんな通知が来るたび、子どもの頃にSF小説で読んだ、人間が機械に使われている恐ろしい未来の姿の中に自分がいるようで、背筋が寒くなる。
今年、「新型コロナウイルス」という聞きなれない言葉を毎日耳にするようになり、そうしたら今度はその言葉を追いかけるように、「リモート」だの「テレワーク」だの「配信」だのという言葉が巷にあふれはじめた。
同じ頃、演劇という心と身体の濃密なふれあいの現場では、公演はおろか稽古すらもできない状況が続いた。そうして、もちろんこの国だけでなく、世界中のあちこちで様々な手探りがはじまった。
だがやはり、わたしにとっては、「演劇」と、「リモート」だの「配信」だのとは、うまくつながらないままだ。そもそもこの身体がそれをうまく呑み込めない。この状況への「最適化」も「アップデート」も身体が拒絶しているのだ。
立ち止まらざるを得ないことは仕方ない。むしろ立ち止まることこそが芸術の本質であるとも思っている。ならば、この立ち止まるという時間をしっかり味わうこと、そして、そこからゆっくりと少しづつ足を踏み出すことを考えたい。
稽古や公演だけがわたしにとっての演劇ではないし、演劇だけが人生のすべてでもない。「新しい生活様式」なんてものとは関係なく、この機会にただただ人間の、そして自然の根源的なものを見つめ、考えたい。
そうしてわたしたちは、たまりにたまった稽古場のゴミを片づけ、プランターに花を植え、いろんな人たちの声に、言葉に耳を傾ける。そんなことをこの数ヶ月は行ってきた。
「2020/俳優の現在地」は、主に劇団に所属し、地域を拠点に活動をしている俳優たち20名に電話インタビューを行うというわたし個人の企画である。
一方「ゆるドラ!」は、毎年5月に行ってきたみまた演劇フェスティバル「まちドラ!」が中止になったことを受け、その状況からのゆるやかな回復を目指してわたしたち劇団こふく劇場と三股町立文化会館が企画したもので、7月に小中学校での上演作品「キツネのしあわせ図書館」と、30周年を迎えた劇団のこれまでの作品の音楽に焦点をあてたライブ「音楽、とか2020」、8月には長崎から劇団ヒロシ軍を迎えての「カチカチ山」、そして9月には町民参加の舞台「ヨムドラ!傑作選」と、これまでの三股町での活動を凝縮した作品を、感染症対策を行った上で上演した。またこの企画では、観客のみなさんが支払ったチケット代金を、同額の三股町商工会のオリジナル商品券に交換するという企画も行った。わたしたち劇団や会館だけでなく、地域の商業者の支援も同時に行うというもので、もちろんこうしたことができるのは、三股町からの篤い支援があるからにほかならない。
現在2020年10月。事態は好転したわけではない。「アップデート」に長けた賢い人たちはやたらと「新しい」を喧伝しているが、わたしはやはりこの期間に根源へと深く潜っていきたいと思うのである。
永山智行(劇団こふく劇場)
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