2022.06.28
コラム|「この先の可能性」(佐賀)
私自身が「演劇」と初めて出会ったのは、地元佐賀での高校演劇という場でした。
あれから30年以上経った今も、この世界で生きています。
私は現在、佐賀を拠点に活動する「劇団とんとこパピィ/とんとこ一座」の最古役者メンバー兼事務局メンバー兼運営メンバーである岩崎香代子と申します。
…厳密に一言で団員というのもな~と思ってしまう(笑)のですが、少し「とんとこ」について説明させてください。
「劇団とんとこパピィ」の発足となったきっかけは、当時、年に1度のペースで活動していた、佐賀県内に存在する様々な劇団や、私も含めフリーで活動している役者を集結させた「バビロニア・カンフーマン」のプロデュース公演でした。
公演を見て感動したというお客様からの要望で「地元でこんなことが出来る役者さんたちがいるのであれば、自分の子供が通う幼稚園でぜひお芝居を見せてあげたいんです」という依頼からのスタート。
各劇団等所属のメンバーが、それぞれの劇団でやってきたのは、劇団主導の一般対象の作品でした。ですが、この時望まれていたのは、対象年齢に合ったモノでかつ観て楽しんでもらえる作品です。
自分たちが「やって観せたい」作品ではなく、依頼者が「望んでいる」作品を提供する。
今から15年前、2007年のことです。
有志が集まって活動をスタートさせたのが幼稚園での公演だったので、初代代表が名付けた「太鼓を叩きながら歩いてワンワンとなく子犬(パピィ)のオモチャ」をイメージした、ちょっぴり可愛らしい劇団名(笑)で、現在も活動を続けています。
発足当初1~2年、希望開催日は平日がほとんどで、佐賀での役者活動の現実問題としては、生活を支える基盤である仕事等の都合で、依頼があっても、断っていたのが現実です。
2009年になり、二代目代表の元、一時ストップしていた活動を再開させるにあたり「どんな現場も断らない。その都度、脚本や構成の工夫、アイデア・努力で開催する。」と決め、依頼の幅は、県内外問わず年々増え、幼稚園・保育園・放課後児童クラブ・小学校・中学校・高校・生涯学習関係・イベント等と広がり、2019年には、年間およそ100現場以上の需要があり順調でした。
また、幅広くどんなニーズにも対応できるよう、パフォーマンスの分野も取り入れてきたので「劇団とんとこパピィ/とんとこ一座」という名前で、現場の内容によって呼称を使い分けて活動しています。
いろいろ説明すると自己紹介だけで長くなってしまいますが、「劇団とんとこパピィ」自体が、県内・県外問わず、様々な劇団に所属していたり、フリーで活動する役者の集まりで、登録メンバーで構成・活動している劇団です。
依頼者が望んでいるモノを受け入れる窓口となり、様々な色でアウトプットして提供するプロデュース「劇団」です。ほぼ依頼公演なので、一般公開のイベント等以外の場で目にした方はあまりいないと思いますが…。
そういった事情もあり、そろそろ劇団として自主企画をと進めていた矢先に、コロナ禍です。自主公演企画の進行、これまでの現場、全てにおいて、見事に影響を受けました。
自主計画はすべて中止、依頼されていた現場も延期となり、最終的には開催中止でキャンセルの嵐です。公共の場、教育機関や地域コミュニティ等が主だったので、コツコツやってきたこれまでの十数年間があっという間にリセットされてしまいました。
だからと言って何かできる力もなく、ただひたすら世間の状況を見守るだけの日々。
この先どうなっていくのか、未来が見えないまま…。
そんな中、こんな状況だからこそと、新たに望まれたのが、後に「SC(シミュレーション・キャスト)プロジェクト」と名付けた、役者のスキルを使った大学とのコラボプロジェクトです。
医療系大学の現場では、コロナ禍により、実習で病院に出向き、実際の入院患者と接することが出来ない看護学生がいて不安を抱えていました。また、その指導を行っている教授もまた、実際の現場を体験させることが出来ないと頭を抱えていました。
「模擬患者(SP※シミュレーション・ペイシェント)」という存在は、以前からあり、病状や症状に詳しいOBの看護士や、教師、講習を受けたボランティア等に、あくまで病状等を分かったうえでの対応練習としてやっていたそうです。(※大学によって様々)
でも、現場のリアルな悩み、求めているものを追求していくと、欲しているのは、実習体験に限りなく近い、人と人が関係を築き上げるコミュニケーションが不可欠な「究極の疑似体験」でした。
性格、生活環境、家族構成、人間関係等、一人の人間として生きているバックボーンをふまえた対応と反応。
条件がそろった、とある「人物」を、創りだす。作品に向き合う役者が追求し、表現している事、そのものではないでしょうか。
大学、病院、劇団が協力し、「究極の疑似体験」を生み出すべく最初に取り組んだ初めてのケースでは、数週間をかけ、手術を終えた入院患者、そしてその家族として、時間経過をふまえて病室での対応を再現しました。本当の現場と同じく、その患者のカルテも病院側の協力で作成され更新され、一人の患者として存在します。
その取り組みは、全国紙、医学書院の専門雑誌「看護教育」にも掲載されました。
【看護教育】
看護教育 Vol.62 No.9 | 医学書院 (igaku-shoin.co.jp)
<その他参考記事>
【長崎大学】
「大学・病院・模擬患者の連携によるCOVID-19に対応した成人看護学実習Ⅰの取り組み」が掲載されました (labby.jp)
【佐賀新聞】
佐賀県内で活動の劇団とんとこパピィ 看護学生の実習で患者役 作り込んだ演技の臨場感 | 行政・社会 | 佐賀新聞ニュース | 佐賀新聞 (saga-s.co.jp)
劇団側として取り組むにあたり、患者だけではなく、時には患者の配偶者、兄妹、医者と、ケースに合わせて役があるので、模擬患者と呼ばれる「SP」ではなく「SC(シミュレーション・キャスト)」と名付けました。
また、対面でもリモートでも、ケースバイケースでハイブリット対応出来るように話し合い、進めました。
きっかけとなったこのケースは看護教育の現場でしたが、リアルなコミュニケーション不足が問題として取り上げられることが多くなった現在、様々な場所、シチュエーションにおいても、この先の未知数の可能性を感じました。
いつでも、少しずつ世の中は変化しています。
私自身、それはそこまで自覚のある事ではなかったのですが、改めてこのコロナ禍という大きな打撃で実感しました。周囲や環境の現状の変化に合わせ、求められることも変わる。
一度公演が決まればなにがなんでも開催する…そんな当たり前だったことが、延期や中止となっても仕方ないと受け入れられてしまう今、この先も、本当に以前とまったく同じような形を取り戻せるのか…?疑問と不安はつきません。
ですが、ただマイナス面だけを見るだけでなく、こんな状況だからこそ浸透した新たな手法やシステム、ニーズを見極め、うまく取り込み利用することが出来れば、新たな文化として進化するのかもしれないとも思っています。
演劇という分野は、壮大な規模で見ると、「人間」をテーマとし、感情、交流、生活、技術など、本当にありとあらゆる才を詰め込んだ「トータルアート」であり、生きていくうえで大事なことが、ふんだんに詰め込まれた文化だと思っています。
だからこそ必要とされないことは、絶対にないと言い切れます。
上手く表現できませんが、全てにおいての「根本」となる材料がここで見つけられるし、育てられる。人が生きていく上で、不可欠なものだと声をあげたい。
最後に、これは個人的な感想ですが、「演劇」は守っていく分野ではなく、進化していく分野として、先へ向かう事が、今求められているのではないのかと、切に感じています。
岩崎香代子(劇団とんとこパピィ/佐賀)
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